大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所姫路支部 昭和63年(ワ)168号 判決

原告

大建工業株式会社

右代表者代表取締役

齋藤義則

右訴訟代理人弁護士

佐治良三

太田耕治

渡辺一平

被告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

橋本武

川村享三

主文

一  被告は、別紙物件目録二記載の建物のうち、三階部分(但し、別紙図面の赤色で表示した部分)を撤去せよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文一項と同旨。

第二事案の概要

本件は、原告から別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を購入した被告が、三階建以上の建物の建築を禁止する建築協定及び売買契約に反して、同目録二記載の地上三階建の建物(以下「本件建物」という。)を本件土地上に建築したことから、右協定委員長及び売主である原告が、右協定または売買契約に基づき、本件建物の三階部分の撤去を求めた事案である。

一争いのない事実等

1  原告は、土地の開発・販売等を目的とする株式会社であり、本件土地を含む姫路市新在家及び八代所在の土地を造成し、「三景園」の名称で造成地を分譲販売しているものである。

2  被告は、昭和五八年一一月一〇日原告から村上真之助名義で本件土地を買い受け、株式会社三誠に請け負わせて本件土地上に本件建物を建築した。

3  三景園の分譲地のうち、本件土地を含む四〇区画(五三筆、合計約一万一六三九平方メートル)の土地については、建築基準法第七六条の三第一項に基づき、三景園建築協定(以下「本件協定」という。)が定められ、同協定は昭和五七年八月一一日姫路市の認可を得、その後同市による公告がなされた(甲四、五、証人清水啓三)。

4  本件協定には、次のような定めがなされている(甲四)。

(一) 建築物の制限(第六条)

協定区域内の建築物は、地下を除く階数は二以下とする。

(二) 違反者の措置(第一〇条)

第六条の規定に違反した者があったとき、委員長は委員会の決定に基づき、当該土地の所有者等に対し工事施工の停止を請求し、且つ、文書をもって相当の猶予期間をつけて当該違反行為を是正するための必要な処置を請求するものとする。

この場合、当該土地の所有者等は遅滞なくこれに従わなければならない。

(三) 裁判所への出訴(第一一条)

(二)の請求をしても当該土地の所有者等がこれに従わないときは、委員長は当該土地の所有者等に対し工事の施工停止または違反建築物の除去等を裁判所に請求することができる。

5  本件協定はいわゆる一人協定であって、協定者は当初は原告のみであるところ、未だ分譲中のため委員会は未成立であり、本件協定第一二条八号により、原告が右委員長としての権限を有している(甲四、五、証人清水啓三)。

6  また、原・被告間の本件土地売買契約においては、本件土地上に建築する建物は地上二階以下とすること(第一二条)が定められている(甲一)。

二争点

1  本件建物の三階部分の建築が本件協定に違反し、被告は右三階部分を撤去しなければならないか。

2  原告の右三階部分の撤去請求は権利の濫用であるか。

(被告の主張)

1  本件土地の購入に際しては、買主名義人村上真之助の従業員である矢野高司が全ての交渉にあたったが、矢野はその直後、金の使い込みが発覚したことから、本件協定の存在を村上及び被告に告げないまま行方不明となり、本件協定書及び売買契約書の所在すら定かでなく、被告は本件協定の存在を全く知らなかった。

また、本件建物を設計したちあき建築設計事務所(以下「ちあき設計」という。)においても、姫路市建築指導課(以下「指導課」という。)と数回協議を重ね建築指導を受けながら、一度たりとも階層制限について注意を受けたことはなく、むしろ、指導課からは、三階建建築に伴う日照問題等について積極的な行政指導を受け、その了解のもと建築確認をとりつけ、工事着工に至ったものである。

2  その後、ちあき設計は、指導課から三階建を禁止する本件協定の存在を指摘され、指導課職員、原告担当者及び建築関係者らにより協議がもたれたが、その時点では基礎工事を終え、一階部分の基礎組みにかかっていた段階であったところ、既に建築資材等の準備が完了していたので、被告は三階建が容認されることを希望し、原告も姫路市の協力を条件としながらも、本件協定の変更ないし廃止に難色を示すことがなかったので、前向きに解決されるものと期待して事態の成り行きを楽観的にみていた。

被告は、原告の要請により一旦建築工事を中止し、その後再開しているが、それはかかる状況を踏まえたものであって、原告の反対を押し切って工事を続行したものではない。

3  結局のところ、原告の申立てにより、昭和五九年五月一〇日本件建物の三階部分の建築工事を禁止する旨の仮処分が発せられたが、この時点では、三階部分までの支柱、ハリ、スラブ(床、天井、屋根部分)等が完成しており、一・二階部分では内装工事を開始していたのであるから、かかる段階で三階部分を撤去することは、物理的に不可能であり、建物全体の効用を毀滅する結果を招き、総額一億円におよぶ建築費用は無に帰することになる。

4  そもそも、本件協定により三階建以上の建物の建築が禁止されているのは、日照、通風及び眺望等の阻害を回避することにあるが、本件建物は、最も高台にあり、また、通常の二階建建物に比べ各階の床から天井までの高さが低く、三階部分も床面積は狭められていて周辺がベランダとなっており、その立地条件及び建物の構造からすれば二階建建物と変わりはなく、三階建のために日照等に支障を生ずるおそれは全くないので、三階部分を撤去する必要性は乏しい。

5  したがって、以上諸般の事実関係に鑑みると、被告において本件建物の三階部分を撤去すべき義務はなく、原告の請求は権利の濫用としかいいようがないものであり、本訴請求は棄却されるべきである。

(原告の主張)

1  建築協定は、その内容を知る知らないにかかわらず、協定区域内で建築する者すべてに効力が及ぶものであり、被告が本件協定を知らなかったことが事実としても、それをもって拘束力を否定することはできない。

また、原告は売買契約の際、矢野に対して本件協定書に署名を求め、協定書も一通渡しているばかりでなく、本件協定の存在及び内容については、重要事項説明の折りに説明しており、売買契約書にも三階建の禁止が記載されているのであるから、被告が本件協定の存在及び内容を知らないのは、被告の重大な過失である。

2  本件建物の三階部分を撤去することは、相当な費用を要することが予想されるが、この費用は、被告が本件協定及び売買契約に違反したために生じたものにすぎず、これを被告が負担することはやむを得ない。

また、被告は、工事着工後かなり前の段階で三階建が禁止されていること、工事を続行すると、後日取壊しの問題が生ずる可能性があることを知らされていたのであるから、その段階で設計変更をしていれば、完成後に三階部分を撤去することに比べはるかに少ない損失で解決することができたにもかかわらず、原告の中止要請を無視してその後工事を強行したものであり、仮に建物の効用が害され損失を被るとしても、それは被告自ら招いたものである。

3  また、三階建は二階建に比べ、日照・眺望等を阻害する程度が増えることは当然であり、本件協定区域は高台にあることから、圧迫感の増大は無視できない。

そして、この種の協定は、一律で簡明な規制をすることでその実効性が確保されるのであるから、本件建物に限り三階建を認めることは、本件協定そのものが空洞化する結果となる。

4  したがって、被告は、本件協定に違反して建築した本件建物の三階部分を撤去すべき義務があり、右三階部分の撤去を求める原告の請求は権利の濫用にあたらない。

第三当裁判所の判断

一前記争いのない事実、甲一ないし九、一一(うち七、九についてはその1・2)、乙一の1ないし4、丙二、丁三、検丁二の1ないし8、三の1ないし7、証人清水啓三、同藤本彬、同大路千秋、同三木繁治、同甲野一郎、取下前の被告株式会社三誠代表者、同足立勇一及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和五二年ころより三景園の分譲開発を手がけていたところ、本件土地を含む四〇区画(五三筆、合計約一万一六三九平方メートル)の土地については、姫路市建築指導課の行政指導もあり、三景園の住宅環境を保全する目的で、建築基準法第七六条の三第一項に基づき、前記争いのない事実4記載の階層制限等を含む「三景園建築協定」を定めることとした。そして、同五七年八月一一日本件協定は同条二項による姫路市の認可を受け、続いて同市は本件協定を公告した。

その後原告は、本件協定区域を含む全ての三景園分譲地につき、「姫路三景園住宅地売買契約証書」及び「姫路三景園住宅地重要事項説明書」において、建物は地下を除き二階以下とする旨の条項を設け(売買契約証書においては第12条②、重要事項説明書においては12(2))、かかる制限を前提に三景園分譲地の販売にあたった。

2  一方被告は、本件土地を購入して三階建住居の建築を希望していたが、自己が暴力団組長であることから、表立って名前を出すのは得策でないと考え、村上真之助に本件土地の購入手続きを依頼した。

そこで村上は、自己の従業員である矢野高司に購入手続きを一任し、矢野は、昭和五八年九月一日一旦は売買契約を締結したが、原・被告間に対象地の認識に齟齬があり、本件協定区域内の別の区画について売買契約がなされた結果となったことから、同年一一月一〇日本件土地につきあらためて売買契約書が作成された。契約の際、矢野は、販売係員から重要事項説明書につき逐次説明を受けたうえ、売買契約書及び本件協定書に添付されている建築協定締結の同意書、本件協定に基づく運営委員会の役員選任委任状にそれぞれ村上真之助名義で記名押印をなし、同日本件土地につき同人名義の所有権移転登記が経由された。

しかしながら、矢野は、村上あるいは被告に対し、本件協定について説明せず、また、被告も、右売買契約書、本件協定書及び重要事項説明書を受け取ったものの、その内容を確認しなかったため、被告は、三階建住居の建築が本件協定及び売買契約に抵触することを認識しなかった。

3  本件建物の建築についても、被告は、足立勇一を名義上の建築主とし、同人にこれに伴う諸手続きを任せ、足立は、同年九月ころちあき設計に対し、本件建物の設計監理を依頼したが、ちあき設計においても、本件協定の存在を知らないまま設計図等の作成に取り掛かり、指導課による指導を受けたうえ、同年一二月初めころ、建築主とされた足立の代理人として本件建物の建築確認申請をなし、翌五九年一月一一日指導課建築主事三木繁治により申請通り建築確認がなされた。

また、その間である同五八年一二月一二日被告の組事務所において、株式会社三誠(以下「三誠」という。)との間で足立を注文者とする本件建物の建築請負契約が締結され、三誠は、建築確認がなされた後である同五九年一月半ばころ本件建物の建築工事に着手した。

4  ところが、同年二月八日に至り、三木主事は、本件協定区域内の別の建築確認申請を受理した際、本件協定書の写しが添付されていたことから、先になした三階建の本件建物の建築確認が本件協定に違反していることに気付き、ちあき設計に対しその旨連絡し、被告も三誠の代表取締役である黒沢正夫から同様の報告を受けた。そして、被告はその後、ちあき設計の経営者大路千秋(ないしは大路の説明を受けた足立)から、本件協定の内容及び本件建物が完成すれば、後日三階部分の取壊しの問題が起こる可能性がある旨の説明を受けた。

他方原告も、三木主事から連絡を受けた自己の子会社を通じて、本件建物が本件協定に違反している事実を知ったが、姫路市としては二階建に設計変更するよう指導する方向であり、後日連絡するとの電話内容でもあったことから、翌九日ちあき設計からの問い合わせに対し、協定の変更手続きは定められているものの、三階建建物は許されない旨回答した。

5  同月二〇日指導課課長藤本の呼び掛けにより、藤本課長、三木主事、原告の担当者である中野修不動産部門開発課長及び清水啓三係長、ちあき設計の大路千秋、三誠の黒沢正夫及び黒沢と面識のある姫路市議会議員角谷らとの間で善後策が協議された。

当初原告は、建築主に対し設計変更を求める方針で臨んだが、大路及び黒沢らから、既に必要資材の準備を終え設計変更により損害が生じること等を理由に、本件協定を変更ないし廃止し、三階建を認めてほしいとの要請がなされ、また、協定区域内の他の地権者の同意を取り付けるに際しては姫路市としても協力するとの意向が示されたことから、中野及び清水は結論を留保し、その日は散会した。

なお、この席上、中野及び清水は、黒沢に対し、結論が出るまで工事の中止を要請し、工事は一時中断された。

この時点における本件建物の工事の進捗状況は、地下駐車場、擁壁及び基礎工事の段階であった。

6  原告は、右協議を踏まえ、三階建を認める方向で検討したが、社内では、本件協定は姫路市の指導により締結されながら、建築主事の見落としにより協定違反の建築確認がなされたうえに、本件協定区域外の宅地についても階層制限がなされ、これに従った住宅が既に建築されており、今さら原告が協定の変更ないし廃止を提案することは困難であるとの見解が支配し、三月一四日原告の不動産部部長である辻が中野と清水を伴い、藤本課長及び三木主事に対し、①原告としては協定の変更ないし廃止はできないこと、②建築主には二階建に設計変更するよう姫路市から指導してもらいたいこと、③設計変更ができないならば、分譲地購入者から同意を取り付けるよう足立に連絡し、姫路市としてもこれに協力してほしいことを申し入れた。

藤本課長は、これを受けて、原告の意向を角谷市議に連絡したが、翌一五日、同市議から藤本課長に対し、足立には、本件協定が廃止されなくとも設計変更する意思がないようであるとの返事がなされた。

7  他方被告は、黒沢から本件建物が本件協定に違反している旨の連絡を受けたものの、その処置を黒沢及び足立らに任せ、また、黒沢から前記二月二〇日の協議結果について楽観的な報告がなされたこともあって、同年三月初旬ころには本件建物の建築工事を再開した。

原告から工事再開の連絡を受けていた三木主事は、原告の前記結論を踏まえ、同月末ころ、ちあき設計に対し、協定の変更・廃止のないことを承知しておくよう伝え注意を喚起したが、「足立の意思が固く、当方からはどうにも仕方がない。」との返答に留まり、結局被告からは、指導課あるいは原告に対し、本件協定の変更ないし廃止に向けて何らの折衝もなされないまま終始した。

8  原告は、建築工事が続行していることを憂慮し、同年四月三日辻、中野及び清水が藤本の後任である合田課長に協議を求めたところ、同課長から「施主からは一向に返事はなく、工事を続行していることからして話に応ずる意思はないと判断する。本件協定の問題は、施主と原告の間で解決するように。市としては関与しない。」との見解を示されたことから、辻らは、もはやこれ以上本件協定の変更ないし廃止の途を残すことは不可能と判断し、同月二〇日ころから仮処分申請の準備に入り、同年五月八日に建築主となっている足立に対し、本件建物の三階部分の工事の中止及び到達後一週間以内に既設部分の取壊しを求める内容証明郵便を送付し、同月一〇日には、足立及び三誠を債務者とする本件建物三階部分の建築禁止の仮処分決定(昭和五九年(ヨ)第一一八号)を得た。

この時点における本件建物の工事は、三階部分までの支柱、ハリ、スラブ(床、天井、屋根部分)等が完成し、一・二階部分では内装工事が開始されていた。

しかしながら、被告は本件建物の建築を続行し、同年七月中旬ころ本件建物は完成に至り、三誠から被告に引き渡された。

二右認定によると、本件建物の三階部分の建築が本件協定に違反していることは明らかといわなければならないが、被告において右三階部分を撤去しなければならないものかどうか、原告の撤去請求が権利の濫用であるかどうか検討する。

1 一般に、建築基準法に基づく建築協定は、協定区域内の土地の所有者等が、その土地上の建築物の敷地、構造、建築設備等に関し、建築法令よりも厳しい制約を定めることを合意し、法令の規制以上の作為又は不作為義務を負担しあうことにより、協定区域内の住宅地としての環境等を維持改善しようとするものであるところ、特定行政庁の認可の公告がなされた後に当該協定区域内の土地の所有者等になった者に対しても、協定の知・不知にかかわらずその効力が及ぶものと解されるばかりでなく、右のとおり、建築協定はいわば当事者間の自主的規制であって、基準法令そのものではないから、建築確認申請の際に窓口指導を行うことはともかく、建築主事の確認の対象とはならないと解される。

そして、右認定のとおり、被告が本件協定を知らなかったのは、被告の補助者と目される矢野の説明不備だけでなく(同人が行方不明になったとの被告の主張を前提としても、当初契約から二ヵ月余りの間、なんら説明しなかったことになる。)、被告においても、本件協定書、売買契約書及び重要事項説明書を受領しながら、その内容を確認しなかった落度に基づくものと認められるのであるから、右建築協定の性質及び効力も考え併せると、当初被告が本件協定の存在を知らなかったこと及び建築主事が本件建物の確認申請の際に本件協定の存在を指摘しなかったことをもって、本件建物三階部分の建築を正当化する事情とみることはできない。しかも、本件においては、本件建物の確認申請の際に建築主事が本件協定の存在を指摘しなかったとしても、建築確認の日から一ヵ月も立たないうちに、建築主事から建築確認申請者に対し、本件協定の存在を指摘し、三階建の本件建物の建築は本件協定に違反することになる旨の連絡がなされているのである。

2  また、本件では、一旦は本件協定の変更ないし廃止の方向性が打ち出されて姫路市も協力の意向を示し、被告も楽観的に構えていたとの事情が認められるものの、右認定事実によれば、被告は、三階建を維持するためには、本件協定の変更等の手続が必要であることを大路あるいは足立の説明により理解していたものと認められるとともに、本件問題の主因は、被告自身の落度により本件協定及び売買契約の内容を知らなかったことにあるのであるから、被告は、三階建を維持するために、本件協定の変更等に関し重大な関心を寄せていてしかるべきである。

しかしながら、被告は、関係者による協議がなされた二月二〇日以降、何ら具体的行動に出ることなく終始したばかりか、三月初めころには原告の結論が出ないまま工事を再開し、三月一四日に本件協定を維持するとの原告の結論が示されても、設計変更の意思を示すことなく工事を続行し、仮処分決定が発せられた後も、被告側から原告に対し、何らかの折衝を申し出たとの事実も認められないうえ、「当初から三階建が希望であり、それが駄目なら土地はいらない。」旨の被告の供述からすると、被告は、本件建物が協定に違反する事実を知った当初から三階建に固執し、本件協定に從う意思のないまま、二月二〇日の原告の工事中止要請を無視して本件建物の建築を強行したものと認めることができる。

さらに、本件建物が完成した現段階でその三階部分を撤去することは、相当の費用がかさむことは容易に想像できるが、被告が本件協定違反の事実を知り、また、関係者による協議がなされた二月時点では、本件建物はまだ基礎工事の段階であり、さらに、原告から結論が示された三月一四日の時点でも、(工事再開から二週間程度であるから)せいぜい一階部分の工事であったと推認されるから、いずれの時点においても、建築資材等に関し損失を被る結果となるものの、設計を変更することは可能であり、三階部分の撤去に伴う損失を拡大させたのは、右被告の対応に起因するものと認められる。

3  被告は、本件建物は二階建とほとんど変わらず、その立地条件からしても日照・眺望等の障害は生じない旨主張するが、前記のとおり、建築協定は、住宅地の環境を維持改善する等の目的で法令以上の規制を負担しあう当事者間の自主的規制であり、その実現はまずもって当事者の任意の履行により図られるべきものであり、また、協定区域内において協定の内容を一律に実施することで、その実効性が確保されるのであるから、建築に至る経緯及びその後の被告の対応等に照らすと、実害のないことを主張して本件建物三階部分の建築を正当化することはできないと解される。

4  してみると、被告は、本件建物の三階部分を撤去すべき義務があるといわなければならないし、原告の右三階部分の撤去請求を権利の濫用とするいわれはない。

三以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官坂詰幸次郎 裁判官水口雅資 裁判官池田信彦)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例